残業しないで帰りたい!

そんな時、松永さんによく言われた。

「王子様がそんなに尖るな。大人になれよ。この世の理はな、勝った奴が決めんだよ」

松永さんは面白がって思いっきりバンバン背中を叩くから後から痛くなる。

松永さんはバブルど真ん中を謳歌してきたバリバリの体育会系だ。あのノリは正直苦手。

俺が王子って言われるのが嫌だと知った途端、わざとカミソリ王子なんて変なあだ名を付けてきたし。
そのあだ名、ダサすぎでしょ?

今思えば松永さんなりに俺を元気付けていたつもりだったのかもしれないけど。

当時の俺はそんなあだ名にまたイライラして、でもめんどくさいから放置した。
もう好きなように呼べばいい。

俺は俺の仕事を粛々とするだけ。

でも、それでいいのかもしれないと思った。

反発して抗って、無駄に能力を周囲に見せつけるなんて無意味だ。

俺は営業の仕事が好きだ。
教材を売るのも好き。
それを仕事にしてるんだから、もうそれだけでいいんじゃないの?

社長がなぜ俺を気に入っていたのか、今でもその理由はわからないけれど、営業成績がいいとかそういうことじゃなく、俺が我が社の教材を好きで売っていたからではないだろうか、と今は思う。

あのワンマン社長は、元は教員だったらしい。当初は教材開発も自分でやっていたそうだ。

改訂も自分が全部チェックしないと気が済まない、そういうところもワンマンだったらしい。

俺は教えるのが専門じゃないから、教材開発のことはよくわからない。
でも、我が社の教材はなかなか面白い内容だと思って売っていた。

改定のたびに目を通して内容を把握していたけれど、面白いなあと思って読んでいた。

当時の社長はその辺りをわかっていたのかもしれない。
< 215 / 259 >

この作品をシェア

pagetop