残業しないで帰りたい!

でも、里美さんの話はそんな内容ではなかった。

「お母様、『決めたことだから、もう二度と翔太には会わないけれど、翔太は本当に優しい子なの』っておっしゃってね……」

里美さんの声が少し震えた。

「翔太くん、弘一さんが帰って来ないといつもドリルを持ってきて一緒にやってほしいって言ったんですって。きっとお母様が寂しい思いをしないように、気を遣っていたんじゃないのかしら?お母様、『あの子はそういう優しい子なの。だから大切に育ててください。お願いします』って何度も頭を下げられて……」

泣いているのか、里美さんの声は震えて止まった。鼻をすする音が聞こえる。

「……里美さん」

「あぁ……、ごめんなさいね……。私、お母様との約束を守れなかったから……」

「そんなことは……」

……そんなことはない。
里美さんのせいでうちの家庭は壊れてしまったから、俺は反抗的だったかもしれない。それでも俺を大切にしようという気持ちは強く感じていた。

里美さんはちゃんと優しく、ちゃんと厳しかった。

他の女たちなんて酷いもんだったよ?だから、そんな風には思わないでほしいんだけどな。

里美さんは大きく息を吸って、気を取り直したように元気に言った。

「そうそうっ!それでね、お母様が翔太くんが好きだから作ってあげてほしいって、特製のオムライスの作り方を教えてくれたの」

俺が好きだから?違うよね?
オムライスが好きなのは親父でしょ?

でも、謎がやっと解けた。
母親に直接教えてもらったから、里美さんが作るオムライスは母親と同じ味だったんだ。

「どんなオムライスなんですか?」

香奈ちゃんが聞くと、里美さんは急にひそひそと小声になってしまった。

「それはね、秘密があるの。実は……を刻んで……と炒め合わせるの。だと……が出て……なるの」

ん?知りたい部分が聞こえない。
二人きりなのに、なぜ小声で話すんだ!
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