残業しないで帰りたい!
「へえー!なるほどっ!」
「美味しそうでしょ?」
「はいっ!今度やってみます」
「ぜひぜひ!細かいレシピも書いてあげるね。きっと翔太くん、喜ぶわよ」
秘密ってなんだ?その秘密とやらを駆使すればあのオムライスになるのか?
「里美さん……、翔太くんのお父さんに嘘をついていたこと、バレなかったんですか?」
おっとっと……。
香奈ちゃん、怖いもの知らずなのかな?
さっきの話を蒸し返したね?
「ううん、バレちゃった。嘘なんてついちゃ、やっぱりダメね。だんだんギクシャクしてしまって一度は別れることになったの」
「そうだったんですね……」
「仕方ないのよ、私が悪いんだもの」
それはそうだ。
里美さんがそんな嘘をつかなければ、母親と弟が出ていくことはなかった。そもそも、外でそんなことをしていた親父も悪いが……。
小さくため息をつくと、寄りかかっていた廊下の壁からそっと背中を離して、足音を立てないようにその場を後にした。
里美さんと親父の間にそんなことがあったなんて、全然知らなかった。
考えてみたら、里美さんが去った後の親父は荒れていたかもしれない。あんなに女をとっかえひっかえして。
里美さんがいなくなってからの親父は仕事も女も全てが派手だった。顔も名前も憶えられないくらい、頻繁にいろんな女が現れては消えていった。
親父はあんな風に荒れるくらい里美さんのことが好きだったの?
なんだろう、ちょっと微妙な気持ちになる。
リビングに戻ると親父がジロリと俺を見た。
「ずいぶん長いトイレだな」
「ずっとトイレにいたわけじゃないよ!」
ハハッと親父が笑った。
あれ?
こんな家族みたいなやり取り、初めてかもしれない。