残業しないで帰りたい!
「意味がわかんないな」
俺がそう言うと親父は少しうつむき、鋭い目つきをした。
ああ……この目。久しぶりに見る。
親父は昔、いつも鋭い目つきをしていた。昔を思い出してあの頃の自分も思い出した?
さっきから何か違和感があると思ってたけど、話す内容が丸くなっただけじゃなく、目つきが穏やかになっていたからかもしれない。
「当時俺はお前の母親と親権を争っていたが、現実的には引き取っても育てられない状況だった。そんな時に里美は俺に嘘をついた。だから、俺は里美を利用したんだ」
「里美さんがいれば、育ててくれるから?」
「ああ、俺にも育てる環境は用意できると理由をつけて、お前の母親とは調停に入る前に金で決着をつけた」
「……極悪人だね」
里美さんは、親父が子どもを引き取りたがっていると知って、親父のためにわざと嘘をついたのかもしれない。でも、それが結果として俺と母親を引き離すことになり、自分のついた嘘に耐えられず出て行った。
「なんで親父はそこまでして俺を引き取りたかったんだよ?」
「それはっ……」
親父は強く言った後、一度口をつぐみ、それからため息をついて静かに言った。
「それは……お前が『息子』だからだ。俺だって人の子だし人の親だ。お前の成長を見ていたかった。本当は遊馬も引き取りたかったんだ」
「……」
初めて聞くよ、そんなこと。
親父が俺の成長を見ていたようには思えなかった……。そんな素振りもなかったし。
知らないところで、親父は親父なりに俺を見ていたんだろうか。
本当か?
俺にはそんな実感、全くない。
もしそうだとしても、親父が遊馬まで奪っていたら鬼だ。母親だって息子の成長を見ていたかっただろう。せめて、遊馬だけでも。
……だから、分けたのか。
いずれにしても、勝手だな。