残業しないで帰りたい!
「もし、吉岡が東京に残ってたら、久保田さんが肩を叩かれてたんじゃないの?」
「……どういうこと?」
「言葉通りだよ?同じ課内で付き合っていることを人事は許さないからね」
「そんなこと言って、結局は見て見ぬフリじゃない」
「いやいや、案外そんなこともないよ。だいたい女の人が肩を叩かれて別の部署に行くか辞めちゃうから、あんまり目立たないだけでさ」
久保田さんは小声で「マジか」とつぶやき、少し身を寄せて囁くように聞いてきた。
「でもアンタの時も私、何も言われなかったんだけど?」
「年度を越えなかったからじゃない?……久保田さん、女子社員同士でそういう話しないの?」
久保田さんはみるみる憮然とした顔になった。
「……なによ、なんかその言い方、すっごいムカつく!」
久保田さんはきびすを返してカツカツと去って行った。
……え?なんで不機嫌になったの?
俺、今何かまずいこと言った?
それにしても久保田さん、俺のことはどうでもいいけど、吉岡にはもっと感謝してあげてよ。
ヤツはいい男だよ?
俺なんかより、ずっとずっとイイ男だ。
愛着のある横浜支社をなんとかしたいというのはもちろんのことだけど、吉岡は久保田さんに仕事を続けさせてあげたい、という思いもあって、自ら横浜行きを仕向けたんだろう。
それってなかなか出来ることじゃない。器が大きくないとできないよ?
吉岡は男を蹴散らすバリバリなキャリアウーマンである久保田さんを好きになったんだろう。
そもそもキャリアウーマンなんていう言葉自体が死語になりつつあるなあ。女の人も男と変わらず働くようになった。親父の時代とは違う。
わかってるんだけどね。
器の小さい俺としては、やっぱり香奈ちゃんには家庭に入ってほしいというのが密かな憧れだ。