残業しないで帰りたい!
香奈ちゃんのお腹はみるみる大きくなって、とうとう産休に入った。
休みに入った香奈ちゃんは毎日家にいてくれて、ふっくら感ものんびり感もどんどん増していった。そんな姿を見てしまうとますます主婦になってほしいという憧れが募る。
香奈ちゃんが毎朝にっこり笑って「いってらっしゃい」と手を振って俺を送り出してくれて、「おかえりなさい」と微笑んで帰りを待っていてくれる。
こんな幸せ、もうたまらない。
予定日が近づき、香奈ちゃんはお腹が大きすぎて動くのもままならなくなった。お腹が邪魔で手が届かないから靴下も俺が履かせてあげる。
そして、毎日のように「早く帰って来て」と言う。
不安なのかな?
そりゃそうだよね?
……俺だって不安だよ。
君を失ってしまわないか、不安なんだ。
「破水したから病院に行く」という連絡は、仕事中、日も暮れ始めた頃に受け取った。
とうとうきたか!
……ドキドキする。
「今すぐ向かうよ」
「んー、でもまだ陣痛が来てないんだ。明日になるかもって先生も言ってるの。あんまり陣痛が来ないと促進剤を使うんだって。陣痛室に入るのはまだ時間かかりそうだから、急がなくても大丈夫だよ」
「そ、そう?でも、なるべく早く行くから」
実はこの後、外せない打ち合わせがあった。
もちろん香奈ちゃんよりも重要なことなんてないから、打ち合わせには行かずに病院に行こうと思ったけど……。
今すぐじゃなくてもいいなら、打ち合わせに出てから病院に行っても間に合うかな。
そう思ったのに。
打ち合わせを終え、入院に備えて用意していた荷物を家から持って来て病院に着いた時には、もう香奈ちゃんは陣痛室に入ってしまっていた。