残業しないで帰りたい!
横浜で大規模な見本市が始まってから、俺たち営業はやたらと忙して、昼飯なんていつも車の中だった。
今日は少し時間が空いたから、久しぶりに休憩室に来たんだけど……。
休憩室の扉を開けたら、ポツンと一人で座って弁当を開けようとしている白石さんを見つけてしまった。
広くて人もたくさんいる騒がしい休憩室。それなのに、どうして好きな人のことは、目ざとくすぐに見つけてしまうんだろう。
白石さん……。
遠くからは見ていたけれど、会うのはこの間、変な別れ方をして以来だ。
あの男とはどうなったの?
付き合うことになったの?
そういえば白石さん、いつもなら青山さんと一緒にいるのに、今日は一人なんだね?
なに考えずに思わず歩み寄ってしまった。
「白石さん」
会えて顔が見られてものすごく嬉しいくせに、普通の顔をして白石さんに歩み寄った。
「おっ!峰岸君もおひるー?」
「うん、まあね。……一緒にいい?」
俺にしてはかなり勇気を出した。一緒に飯なんて……。
「いいよー」
白石さんはにっこり笑った。
……良かった。
「今日は一人?いつも青山さんと一緒なのに」
「うん、青山さん早退したんだ。それがさっ!もう胸キュンで大変だったんだよー!」
「は?」
胸キュン?
意味がわからない。青山さんは胸キュンで早退したってのか?
……そんなわけないよな。
「王子が、超ヤバくってさー!」
「はあ?」
ますますもってわからない。この人、なに言ってるんだ?
王子って何?
白石さんは興奮冷めやらぬ様子で、弁当にも手を付けずに、青山さんと藤崎課長の話をまるで自分のことのようにイキイキと語ってくれた。