残業しないで帰りたい!

香奈ちゃんは看護師に手伝ってもらってベッドに移ると、力なくゴロンと横になった。

疲れたんだよね?
まだ少し汗で濡れた額の髪を払う。

「本当にお疲れさま。……ありがとう」

何を言うか考えていたわけじゃなかったけど、やっぱり「ありがとう」と言いたくなった。

それを聞いて香奈ちゃんは笑った。

「ううん。やっぱりすごーく痛かったけどね」

「……そうなんだ」

そこは男にはわからないからなあ。ごめんね。

「太一くん、早くこの部屋に来ないかなあ」

香奈ちゃんは枕に顔を半分埋めて目を閉じた。

太一、とは既に決めていた子どもの名前だ。翔太の長男だから翔一か太一がいい、と香奈ちゃんが言い出した。
そんなのわかりやす過ぎるし、俺としてはちょっと恥ずかしい。

でも、他に名前と言われても、俺は特にこだわりなんてなかったから、結局香奈ちゃん一押しの太一に決まった。

「ね、香奈ちゃ……」

話しかけようとしてふと見ると、香奈ちゃんは小さな寝息を立てて寝てしまっていた。

「……」

子どもを産むって本当に大変なんだろうな。

子どもと一緒に過ごしたい、か……。
もう香奈ちゃんは、すっかりお母さんになってる感じがする。
俺は、どうだろう……。

優香さんは、香奈ちゃんが本当のお母さんの辛そうな姿を見てきたから、お母さんの立場にはなりたがらないんじゃないかって思っていたみたいだけど、それは違う。

香奈ちゃんは「私がお母さんにしてほしかったことを子どもにしてあげたい」と言っていた。

香奈ちゃんは子どもの頃、表には出さなかったけれど、本当はとても寂しかったようだ。
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