残業しないで帰りたい!
「はーい!じゃあ奥様の処置がありますので、旦那さんはお外に出てくださいねー」
あ、俺も追い出されるのね?
「じゃあ、香奈ちゃん、後でね。病室で待ってるから」
「うん」
小さくうなずいた香奈ちゃんの灰みがかった瞳は、より一層薄い色に見えた。
ここで別れたら死んじゃうなんてこと、ないよね?
そんなバカなことを考えながら病室に向かう。
病室は4人部屋だった。一人一人のブースはカーテンで仕切られていて、隣のベッドの人はもう子どもが一緒にいるらしい。赤ん坊の小さな泣き声が聞こえてくる。
この病院は母子同室というシステムで、子どもが新生児室にいる最初の1日を除いて、あとはずっと子どもと一緒に過ごすそうだ。
子どもか……。
わかってはいたんだけど、あの赤ん坊が香奈ちゃんの腹の中にいて、表に出てきたんだ。
俺たちの子ども……。
不思議だな。
さっき抱いた、とても小さな人間は俺の腕の中で小さく動いて、俺はそれを可愛いと思った。
俺もそんな風に思うんだなあ。
ベッドの横にパイプ椅子を置き、座って待っていると、しばらくして香奈ちゃんが車椅子に乗って戻って来たから驚いて立ち上がった。
「車椅子なんて……、大丈夫なの?」
「あはは、大丈夫だよ。すぐには歩けないだけで」
「……そう?」
車椅子を押してきた看護師も「みなさんそうですよ?」なんてにっこり笑った。
そうなの?本当に?
それならいいけど……心配だなあ。
「またそんな不安な顔をして。翔太くん、しっかりしなさい」
「……はい」
弱々しくても君は俺のカミさんだね。安心したよ。