残業しないで帰りたい!

目があった哲也は、嬉しいような切ないような瞳で微笑んだ。

周りからオーッ!と声があがる。

その声にハッとしたのも束の間、握ったその手を引き寄せられて、勢いよくガバッと胸の中に抱き締められた。

哲也の力強い腕の感触。ワイシャツ越しに感じる体温。私の大好きな人。

同時にパチパチと拍手が巻き起こった。そして私たちがうまくいったのを見届けると、周りのギャラリーは気を遣うようにざわざわと解散していった。

「喜びも苦しみも、一緒に感じたいんだ。もう一人で苦しむな」

その囁きに、また涙があふれて指先が痺れた。

「もう二度とここには来ないでほしい。そんなに自分を責めなくてもいいんだ」

「違うの、私は彼に自分の罪を……」
「違う!」

重ねるように言って、彼は私を黙らせた。

「瑞穂はあの人を責めてるつもりで、本当は自分を責めてるんだ。瑞穂は真面目な子だから、後悔してるんだろ?自分が悪かったって思ってるんだろ?」

「……そんなこと……」

声が震えた。

「私、そんないい子じゃない……」

「いいんだ。いい子じゃなくていい!俺のそばにいてくれれば、それでいい」

違うの!私、哲也が思ってくれてるような人間じゃない!
思わず大きな声を出す。

「違う、ダメなの!私なんか、あの男が憎くて怨んでるどうしようもなく醜い人間なの!」

哲也はかき抱くように強く抱き締めた。

「いいんだっ!醜くてもいい!俺、瑞穂じゃなきゃダメなんだ!全てを忘れろとは言わない。忘れることなんかできないと思う。でも、俺のそばにいて俺と一緒に未来を見てほしいんだ」

そんな言葉、強く胸を打たれて痛くて息もできない。大粒の涙がぽろぽろと頬を伝って流れ落ちた。
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