さくら


桜子が中学3年生になったとき、優しい藤子が一度だけ激しく怒ったことがある。

その日は珍しく大学病院で忙しく働く志信も一緒に夕飯の食卓についていた。

「桜子ちゃん、今日担任の先生からお電話いただいたわ」
藤子が静かな低い声で切り出した。


桜子の肩がピクリとあがる。


「何?桜子、赤点でもとったの?」


「もっと悪いわ。進路希望表に就職って書いたって」

「桜子!?」
「桜ちゃん!」

志信と聡志が同時に名前を呼ぶ。

「しかも住み込みで働けるところって先生に言ったんですって?」

藤子の冷たい声に桜子が竦む。

「・・・・・高校は義務教育と違うし、これ以上迷惑をかけるわけには・・・・・」

未散が死んだのは交通事故で、桜子には相応の保険金が支払われたはずが、それを目当てに引き取ったおじに全て奪われた。
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