さくら
ソファーに座り、本を読んでいた志信が顔を上げた。
「おかえり。遅かったな」
「うん、ごめんね。先生は?」
コートとバッグを志信の向かい側のソファーに置きながら聞く。
「あんまり食欲はないけど変わりない」
「そう・・・・・」
泣いたことがバレないように、出来るだけ志信と目線を合わせないようにした。
「熱いお茶でも入れるね」
踵を返し、キッチンに行こうとした桜子の手が引かれた。いつの間にか立ち上がって桜子の方に近付いてきた志信が訝しげに桜子を見つめる。
大きな手が桜子の頤を掴んで上向かせた。
「目が赤い・・・・・・泣いた?」
「な・・・・・泣いてない。しーちゃんの気のせいやし」
志信の拘束が強くて逃れられないので、せめて視線だけでも外そうとした。