リナリアの王女
 私しかいないはずの空間に男性の声が響いた。



「クラウド・・・」



振り返って確認するまでもなく、その声の持ち主はクラウドである事は分かっていたが、まさかこの場所に現れることは想像していなかった。

・・・いや、このお城はクラウドのものなのだから、クラウドがどこに現れたとしてもおかしくはないのだが。

「エリーゼはバラが好きだろう?だからいつお前がここに来ても良いようこのバラ園を作ったんだ」

どうして私がバラを好きだと知っているのか気になるが、これもまた見ていて知ったのだろう。
ここまでくると、一体どこまで知っているのか気になる。



・・・怖い気もするが・・・。



「サラちゃんが言っていたけれど、このバラ園の手入れをクラウドがしているって・・・」
ここに来て分かったが、このバラ園の規模はかなり大きいものだ。
それをクラウド一人が世話しているというのか・・・。
「ああ、エリーゼの為に俺が出来る事はなかったからな。このバラの手入れだけは俺がやっている」
用事があり城を空ける時は城の者に頼むがな、と続けたクラウド。

「ありがとう、クラウド。とても気に入ったわ」



会う事も話すことも出来ず、ましてやいつこちらの世界に来るかも分からない私の為にここまでしてくれるクラウドに私は心からお礼を言った。


「初めはエリーゼの喜ぶ顔が見たい思い始めたものだったが、今では俺の気分転換にもなっている」
「今度からは私も一緒にお世話をしても良い?」
素敵なバラ園で私もすっかりここが気に入ってしまった。そんな場所のお世話をクラウド一人に任せる事はしたくない。
「エリーゼがやりたいのなら構わない」
「って言ってもバラのお世話の仕方はよく分からないから、クラウドの手が空いている時に教えてね?」
「ああ、分かった」



この世界でやれる事が出来た。
それはとても小さい事だが、私にとってはとても大きい一歩だった。




そしてそれはまた、私が元いた世界から一歩遠のいてしまったという事にもなるのだが。




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