リナリアの王女
 私はクラウドの執務机の近くにある窓に近づく。


「本当だ。バラ園が見える・・・」


そこからは丁度、私がよくお茶会をしているテーブルが見える。
「エリーゼが楽しそうにサラと話しているのを見ているんだよ」
そうクラウドに言われてしまい、私は恥ずかしくなってしまった。

会話の内容こそここまで聞こえないとはいえ、女子会を楽しんでいるところを見られているとは・・・。

「だからお茶会をした後だって分かったのね」
「ああ。それよりも俺は悲しいな」
さっきとは一転、少し落ち込んだようにクラウドは言った。
「何?私何かした・・・?」


もしかして毎日毎日婚約者という立場にあるというのに何もしないでいる事に対して、そろそろ怒りが溜まってきているとか・・・?


「エリーゼはまだ俺に対して遠慮があるみたいだね」
思ってもみない返答がきてしまった。
「例え仕事中でもエリーゼが来てくれれば休憩の時間ぐらいとるよ」
「そんな無理には、」
「無理なんかじゃないよ。何よりも愛しいエリーゼが俺のところに来てくれたんだ。一番優先すべき事は一目瞭然じゃないか」
私を真っ直ぐと見ながら言うそのセリフ。
気障に聞こえる、いや実際に気障なのだろうその言葉をクラウドの口から聞くとそう思えないのはなぜだろうか。
「だから初めから気にしないで紅茶の差し入れに来てくれたんだと言ってくれれば良い」
「・・・分かった。だからとりあえず手を離してもらえないかしら」

相変わらずスマートではあるがスキンシップが激しい。
好きだと自覚するまでは単純に恥ずかしいと思うだけだったからまだ良かったが、今では鼓動が異常に速くなってしまうんだから困りものだ。
私は恥ずかしくなり、少しぶっきらぼうに言ってしまった。
しかし、その私の態度の意味さえも分かっているかのようにクラウドは気にせず、

「おや、エリーゼは恥ずかしがり屋だね。じゃあ早速紅茶をいただこうかな」

と握っていた手をスッと離し、執務室にあるダイニングセットのソファに腰かけた。
このやり取りで恥ずかしい思いをさせられてしまったので、私も喉が渇いてしまい、結局一緒に紅茶を飲む事となった。




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