初恋パレット。~キミとわたしの恋の色~
「……よし」
肺の中に吸い込んだ空気を丸ごと吐き出すように深呼吸をして、いざ、と覚悟を決める。
もう中には百井くんがいるはずだ。
いつものように不躾に戸を開けて「久しぶり!」って明るく声をかけよう。
けれど、戸に手をかけた瞬間、わたしの力ではない誰かの力で、美術室の戸が開けられた。
百井くんが絵の具バケツに水を汲みに出るタイミングと重なったんだろうかと一瞬思ったものの--。
「……あ、モモちゃん」
「……」
中から出てきたのは、なぜか実結先輩で。
「ご、ごめん……」
「……、……」
目元を隠すように顔を斜め下に向けるなり、ぱたぱたと可愛らしい足音を響かせて廊下を走っていってしまった。
いったい、中でなにがあったっていうんだろう?
実結先輩が走り去っていった廊下の先を呆然と見つめながら、どうして泣いていたんだろうと思う。
先輩は条件反射的に隠そうとしたけれど、戸を開けた瞬間、泣いている目とわたしの目がしっかり合ってしまったから、間違いなく先輩自身もわたしに隠しきれているとは思っていないはずだ。