初恋パレット。~キミとわたしの恋の色~
「なんでもないわけ……ないじゃん」
「……」
その声は、おそらく百井くんの耳に届いたと思う。
でも、いくら待っても返事はもらえず、美術室の入り口に突っ立ったまま、重苦しい空気が続く。
なんでなにも話してくれないの? 実結先輩は泣いていたけど、百井くんだって本当はつらいんじゃないの?
だったら、わたしに吐き出してよ。
最悪のタイミングで来ちゃったことは謝るから、だから、そんなにつらそうに絵を描かないでよ……。
今の百井くんの姿があんまり痛々しくて、ただ入り口に立っているだけでなにもできない自分が悔しくて。
あっという間に目に涙が浮かび、それがこぼれ落ちてしまわないように下唇をきつく噛んで耐える。
どうしてわたしは、好きな人のつらさひとつ和らげてあげることができないんだろう。
クラスのことだってちっとも力になれていないし、むしろ、わたしがその中で浮いてしまわないように、いつも百井くんに守ってもらってばかりだ。
「……ねえ百井くん、わたしも好きな人、いるよ」
それは、ぽろりとこぼれた声だった。
もう言ってしまおう、全部ぶちまけてしまおうと唐突に思って、頭で考えるより先に声が出た。