初恋パレット。~キミとわたしの恋の色~
「まったくもう。ろうそくで明かり取りとか、江戸時代かっつーの。なにかあったんじゃないかって不安になって、ちょっと損しちゃったじゃない」
またブツブツと悪態をつきながら、ろうそくの光が漏れている場所を目指してテクテクと木の廊下を進む。
さっきまでと違ってわたしの足取りはゆっくりと落ち着いたもので、なんならいっそ、足音を立てないでそこまで行き、思いっきり扉を開けて心底驚かせてやろう、なんていう悪戯心が芽生えてくる。
けれど、美術室に近づくにつれ、人の声が聞こえてきた。
百井くんとは明らかに違う女の人の声は、憔悴しきっているものの、どこか狂気のようなものも孕んでいて、ときどき百井くんがなだめている声も聞こえてくる。
異様な雰囲気に心臓がバクバクと暴れ出し、手のひらや背中に、じっとりとした嫌な汗が浮かぶ。
それでもわたしの足は、まるで吸い寄せられるように動き続け、いよいよ美術室の扉の前に着くと同時――。
「もう私を脅すのはやめてよ! 恩着せがましいんだってば! ナツくんはあのときのことは忘れたかもしれないけど、私はずっと、いつみんなにバラされるか気が気じゃなかった。それがなによ、ここ最近、先生に告白しろ告白しろってそればっかり! こんな状況でいったいなにを告白すればいいわけ!? 今さら私を庇った恩を振りかざしたりして、ほんっと意味わかんないっ!」