メガネ殿とお嫁さま
「日野原家の男子たるもの
堂々とした姿勢でおらんか!」

明治時代に建てられた
和洋折衷の洋館に
祖父の怒鳴り声が響く。

重要文化財に指定されたこの家は
どこもかしこも古めかしい。

市の許可なしに、
改装どころか修理さえ出来ない。

この天井がやたら高い、
講堂のような食堂には、
僕と祖父しかいない。

両親は、
海外を飛び回り、
年に数回しか会えないのだ。

また、
僕のこのなよなよした性格は、
姉3人によって形成されたと
いっても過言ではない。

その姉もそれぞれ
順に嫁いでいき、
あの騒々しかった屋敷は、
祖父がいくら叫べども、
静寂としか言えない状態へと
変貌し、
これがこの家の日常であった。


この祖父、
日野原大五郎も
すっかり老いたが、
僕を一人前の後継者にすると
意気込んでいて、
まだまだくたばりそうにない。

僕を男らしく育てることが
祖父の生き甲斐と言ってもいい。

古めかしいのは家だけではない。
かつては、武士として、
明治以降には伯爵、貴族院を果たし、
先祖代々堅苦しいまでの家柄だ。

とはいえ、時代に逆らうことも出来ず、
父なんて、
やれ武家だ華族だなど
ナンセンスだと言うだけで、
どんどん会社の資本を太らせることに
重きを置いている。

祖父も結局、隠居した以上、
父にはもう表立って逆らえない。

そうなると、
資本あってこそ家柄なんて
1番のナンセンスだろう。

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