不順な恋の始め方
「……んん。よい、しょ」
定時を過ぎた頃、大量の資料を両手で抱えあげてオフィスを出た私。
誰にもバレないようオフィスの扉を足で押し閉めると、ヒールの音を鳴らして歩き始めた。
しばらく廊下を歩いていると、前方からある男性がこちらへと向かって歩いてくるのが見える
「う、わ」
その男性というのは坂口先輩で、私は目を合わせないようにと目線を下へと向ける。
そして、とにかく早く通り過ぎることを願った。
しかし、そんな願いは虚しく坂口先輩はピタリと私の目の前で足を止めて声を掛けてきた。
「森下さん」
「……は、はい。何ですか」
少しだけ声をかけられそうな予感はしていたけれど、本当に声をかけられたことで私の額には変な汗が薄っすらと浮かぶ
出来るだけ平然を装うことを意識してはみたが、どうしても目は合わせられないし、不自然になってしまう私の言動が本当に嫌になる。