不順な恋の始め方
「坂口先輩もしかして……さっきの根に持ってます……?」
「はは、まさか。森下さんのリアクションがおもろいで、ちょーっとイジリたなるだけや」
ははは、と笑ってエレベーターのボタンを押す坂口先輩。
1階へとやって来ると開いたエレベーターの扉。それを片手で押さえてくれている坂口先輩に小さく頭を下げ、私はエレベーターへと先に乗り込んだ。
「坂口先輩って意外とSなんですね」
私と坂口先輩の2人しかいないエレベーターに、私の放った小さなひと言が、思った以上に大きく響く
「え?そうか? そんなん初めて言われたけどなあ。俺はノーマルやで、ノーマル」
全然普通やろ、と坂口先輩は笑って言う。
違う気がするけれど、まあ、坂口先輩がそう言うならノーマルだということにしておこうか。なんて思っていると5階で止まったエレベーターの扉が開いた
エレベーターから降りると、私は坂口先輩に誘導され〝502号室〟の前で立ち止まる。
その502号室のネームプレートには、しっかりと〝坂口〟と書かれていて。そのネームプレートが、今日から私はここに住むんだと、改めて実感させる。