不順な恋の始め方
───ガチャッ…
ゆっくりと静かに開かれる扉に、ゴクリと息を呑む。
「お、お邪魔します…」
小さくそう言うと、ゆっくり、ゆっくり、足を偲ばせるようにして中へと入っていく私。
そんな私の後ろからくすくすと笑い声が聞こえてくるのは何かの気のせいだろうか。
「ちょ、森下さん…っ…遅い……遅すぎるで…ほんま、自分、忍者やないんやから」
「えっ……な、だって」
くすくすという笑い声が聞こえた気がしたのは気のせいでも何でもなく、それは、真後ろにいた坂口先輩が発していたもので。
どうやら、ゆっくり歩いていた私のせいで先へ進めず困っていて。尚且つ、そんな私の姿に笑っていたようだった。
「す、みません…緊張して、つい…」
確かにゆっくりではあったけれど……そんなに笑う程のことだろうか。
だって、人の家に上がり込んでズカズカと進んでいけるわけがない。ましてや、男性の家だというのに。
「これからここ帰ってくる度にそうやってゆっくり歩くんかー? はは、おもろいな、それ」