不順な恋の始め方
「毎日、一緒に帰ってくる度にそうやって忍者歩きしてもらえるらしいし、これからの生活が楽しみやなあ? 森下さん」
「な…そんなのしませんから、もう!」
「ええー? なんや、してくれへんの? それは残念やわ」
くすくすと笑い続けている坂口先輩は、ゆっくりと歩く私よりも先にリビングへと入って行った。
そんな坂口先輩を追うようにして、私も続いてリビングへ入る。
ソファーにテーブル、それからテレビ。
カーペットはひかれておらず、棚や置物のような余分なものは全く置かれていない、シンプルで綺麗なリビング。
男の人の部屋って、大体がこんなものなのだろうか。
「なんや珍しいもんでも見とるみたいな目えしとるけど、なんかおもろいもんでもあったか?」
「え、いや、そういう訳じゃなくて。シンプルで綺麗だなー…と…」
前の彼氏の家にも一度行ったことはあったが、かなり緊張していたせいか殆ど記憶がない。
…まあ、緊張していたとはいえ何の記憶も印象も残らないくらいなのだから綺麗でも汚くも無かったのだろうけど。