ジキルとハイドな彼
「全責任はとる」

『りょーかいっす、本部に伝えます』

小鳥遊の口調は投げやりだ。

電話が切れる寸前、小鳥遊、と呼び止める。

「お前がいなくて心細いよ」

『なんすかソレ。気持ち悪いっす』

だな、と言って俺はクスリと笑い電話を切った。

廊下の突き当たりまで来ると緑と白の非常階段マークの下に鉄の扉があった。

「成川、いけ」

俺が指示すると成川は露骨に顔を顰める。

「俺はこの先未来のある若者っす」

「…もういい」俺は舌打ちしてドアの取手に手を掛ける。

音が立たないよう鉄の扉を開き、中へ身体を滑り込ませる。

直ぐさま銃を構えて辺りを見渡すが人影は見当たらない。

安全の確認が取れると、中へ入るよう手で合図する。捜査員達は列になり後に続く。

一番最後が成川だ。

冗談で言ったつもりだったが、可愛いくて優秀な部下が一瞬本気で恋しくなった。

そのまま一番上まで階段を上がっていくと屋上へ通じる扉があった。

田所さんが音を立てずに扉を開けると、俺とスポーツマン風若手刑事が襲撃に備えて銃を構える。

しかし、辺りに人の気配は見当たらなかった。

入口の側に大きな貯水タンクがあったので影に身を潜め、銃を構えたまま辺りの様子を伺う。

何だあれは。

落下防止フェンスの側で向かい合って立っている男女の姿が見える。

女性の顔は血の気が引いて真っ白だ。

黒髪が風に煽られさらりと靡く。

薫…

向かい合っている男は富永聡だ。

手には銃が握られており、その銃口は真っ直ぐに薫を捉えている。

久々に再会した恋人同士、ではあり得ない展開…。

鼓動が大きく跳ねた。

俺はホルスターから銃を抜き、貯水タンクの影から飛び出していく。

シリンダーに富永の姿を捉えると、迷うことなく銃の引金をひいた。
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