ジキルとハイドな彼
愛しの彼
銃声が鳴り響いた…のを確かに私は聞いた。

あ、あれ、私、死んだのかな。

恐る恐る目を開けると聡が目の前に倒れている。

まさかの光景に我が目を疑った。

「あ、あれ?あれえ?!」

私は…死んでいない…。

その時、銃を構えた男達が屋上へ複数人突入してきた。

「えええ?!な、何?!」新しい追っ手だろうか。私はパニックのあまり腰が抜けて、その場に座り込む。

男たちは倒れている聡に銃口を向けて取り囲んだ。

「だめ!その人は殺さないで!」

私は声を振り絞って叫んだ。

死んだら警察に突き出せなくなる。聡は生きて罪を償わなければいけないのに。

ポロシャツを着たおっさんが倒れこんだ聡の上にまたがり、腕を後ろに捻りあげる。

「警察だ!動くな!」

「ええ?!警察?!」

「お嬢落ち着け」

馬乗りになり聡を取り押さえていた男がこちらに振り向く。

目を凝らすと見覚えのある丹下団平顔だった。

「た、田所さん?」

黒いウィンドブレーカーを着た男が無言で私に向かって歩いてきた。

咄嗟に腕で顔を覆って身構える。

ウィンドブレーカーの男にがっしりと腕を掴まれ私はビクリと身体を痙攣させる。

「薫!」私の名前を呼ぶと男は帽子をとった。

長い睫毛に縁どられた漆黒の瞳が私を捉える。

「コウ…」

コウは強張った表情で頷き、頬に手を添えた。

ひんやりして冷たかったが大好きなコウの手だ。

ああ、再びコウに会えるなんて生きてて本当によかった。私の目に涙が浮かぶ。

ここで二人は熱い抱擁を交わす…筈だった…。
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