ジキルとハイドな彼
「馬鹿!」

突然怒鳴られて私は目を丸くする。

「あ、あれ?」私は想定外の展開に首を傾げる。

「コソコソ隠れてなにしてるんだよ!」

コウの顔は蒼ざめ、目は血走って怒りの色が浮かんでいる。とても抱擁どこではない。

「ご…ごめんなさい」迫力に押されて私は反射的に謝った。

「ごめんで済むなら警察いらねーだろ!」

小学生の屁理屈をリアルに警察に言われたので思わずニヤリとする。

その様子を見てコウは舌打ちした。

「葛城さーん、富永のこと連れて行っちゃいますね」

聡を取り押さえている捜査員のうちの一人が声をかけてきた。見覚えのある地味顔だ。

コウは聡に向かって歩いていくので、脚に力が入らないながらも、フラつきながら後を追う。

「薫…」聡は私に視線を向けた。

後ろに組まれた手には血が滲んでおり、手錠が掛けられている。

両腕を田所さんともう1人の若い刑事にガッチリ抑え込まれていた。

「死ぬなんて絶対許されないよ。自分の犯した罪はきちんと償って」

最期まで私を騙し続けた男…

しかし聡には怒りを通り越して、詫びしさだけしか感じない。

「薫、体当たりで迫って撃沈した相手って、こいつだろ?」

聡は顎でコウを指した。周囲の視線が一斉に私とコウに集まった。

私は顔を真っ赤にして水から出された金魚のように口をパクパクさせる。

前言撤回。

根っから聡は下衆な男だ…許さないと心に決めた。

「あ、そうだ」コウが突然大きな声をだした。聡に近づいて行き、顔を除きこむ。

「あのダイヤのネックレス、すり替えておいたからチップなんて入ってないよ」

「てめえ」聡が憎しみを込めて睨みつける。

「本物のダイヤモンドだから、後できちんと返してもらうね」

コウはニッコリと艶やかな笑みを浮かべた。
< 278 / 302 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop