ジキルとハイドな彼
「おい、おばさん、あぶねーだろ。気をつけろよな」

ホストもどきが振り返って捨て台詞を吐く。

「ちょっと待ちなさいよ!」

言い返そうとして立ち上がった瞬間、持っていた紙袋の底が抜けて、中に入っていた引き出物を道端にぶちまけた。

女の方がちらりと視線を向け、やだー超まぬけ、と言ってクスリと笑う。

若さとはなんて残酷…。

何事もなかったようにイチャイチャしながら、去っていくその後ろ姿に思わず呪いをかけてやりたくなる。

そこに一連の騒ぎを聞きつけて、向かいのお茶屋のおばさんが通りに出てきてしまった。

「ちょっと! あんたそれ直していきなさいよ!」

大声でおばちゃんに怒鳴られ、私はがっくりと項垂れる。

反論する気力もつきて「はい…」と消え入りそうな小さな声で返事をした。

しばらくお茶屋のおばさんは私の様子を見張っていたが、しょぼくれながらも倒れた自転車を起こしている姿を確認すると、フン、と鼻をならして、店へと戻って行った。

今日はなんて最悪な一日なの。

自転車を持ち上げながら、思わず目頭が熱くなって熱いものが込みあげてくる。

何とか気力で保っていたが、お茶屋のおばさんに止めを刺された気分だ。

そんな惨めな私の姿に同情したのか、通りすがりの男の人が自転車を持ち上げるのを手伝ってくれた。

「…すみません」泣き顔を見られたくなかったので俯いたままお礼を言う。

いえ、と男性は短く答えて、そのまま黙々と自転車を起こし続けた。

ようやく最後の自転車を元の位置に戻す。

「ありがとうございました。助かりました」

涙も治まったので今度はきちんとお礼を述べようと顔を上げる。

その瞬間、想定外の事態に私はフリーズした。
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