ジキルとハイドな彼
そこには長身痩躯の美しい男性が立っていたのだ。

男性に「美しい」という形容詞はあまりしっくりこないが、彼を言い表すには、格好がいい、では軽すぎるし、男らしい、では汗臭すぎる。

まさに美しいのだ。

思わずじっと見入ってしまう。

白い肌に漆黒の髪、鼻梁の線は美しく、こちらを見据えた大きな瞳は長い睫毛に縁どられている。

中性的な顔立ちだが、肩幅は思いのほかがっしりとしていて逞しい。

11cmのヒールを履いた160cmの私よりも背が高いということは身長も180㎝は優にあるだろう

白いシャツに黒い細身のパンツというシンプルな出で立ちが、彼の完璧さをより惹きたてている。

「お怪我はありませんでしたか?」男性は柔らかい笑みを浮かべた。

「あ、はい」思わず顔が赤くなる。

「よかったです。では」

そのまま立ち去ろうとする男性に「あの!」と声を掛け思わずひきとめる。

「よかったらいかがですか?」拾い集めた引き出の中からバームクーヘンを差し出す。

男性はキョトンとした顔でこちらを見ている。

「頂き物なんですけど、ホテルのお菓子だから美味しいと思います」

こともあろうが絶妙のタイミングで私の腹の虫が、グウと鳴る。

披露宴では気分が優れず、料理にはあまり手をつけていなかったことを思い出す。

あまりの恥ずかしさに耳まで赤くなると、男性はクスリと笑う。

「私はそこの店の従業員で葛城と申します。よかったら一緒に召し上がりませんか」

お茶屋の隣にある壺や置物が並んだ古い木造の建物を指さす。

「何のお店…でしたっけ?」

「主に古物や古書を取扱っています。美味しいお茶もありますよ」

店構えを見て一瞬警戒したものの、葛城と名乗る男は物腰も柔らかく礼儀正しいようだ。

そしてなんといっても、いと見目麗しい。

じゃあ、少しだけ、と言ってお相伴にあずかることにした。
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