王様とうさぎさん
 


「あのー、追わなくていいの?」

 はは、と笑いながら、切った携帯を置いて、忍が言う。

 莉王がさっきまで居た場所を見ながら、允は言った。

「行ったら、更に怒ると思わないか?」

「まあ、僕なら、十五発は殴るね」

「なんだ、その半端な数字」
と言うと、忍は、

「……お前が言ったんだろ、今」
と言ったあとで、

「なんか呑む?
 大丈夫だよ、開店前だから、奢り」
と肩をすくめて見せる。

 今、莉王が唇を拭っていったその指先の感触がまだそこに残っていた。

 思わず、手をやり、そして離した。

「ねえ、式の日取りっていつ?
 呼んでくれるよね?

 だったら店、その日は閉めないと」

 突然、大真面目に忍に訊かれ、

「なんの話だ?」
とよく聞いてなかった允は訊き返す。
 
「困ったうさぎさんだねえ」
と忍は、いつか莉王がつけた呼び名で呼び、笑って奥に入って行った。
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