~SPの彼に守られて~
「……」
「……」

 車中ではラジオなどの音は流れず、ずっと車の走行音だけがして、2人とも無言のままでいる。

 何か話をした方がいいかもしれないけど、何を話せばいいかな?経理課のチームの場合は仕事に関する話が多いけど、鷹野さんってどんなことに興味があるのか分からないな。

 前にSPになったきっかけを話してもらったけれど、また同じような質問をしちゃまずいし、うーん……。

「もうすぐ着くぞ」

 窓の外を見ると、いつの間にか普通乗用車は夜景が綺麗で有名な湾岸エリアの通りを走っていた。

 角井百貨店の近くにも高層ビル群があって、ビルの最上階から見える景色も人気だけれど、この湾岸エリアにも高層ビルのほかに天気予報の映像でよく映し出される巨大な観覧車などもあって、その輝きに感嘆する。

「綺麗…」

 その言葉しか出ないけど、本当に綺麗なものは綺麗としか出てこないんだもの。

 鷹野さんはハンドルを左に切って普通乗用車が巨大観覧車に近づいていき、その圧倒的な輝きに更に息を飲む。

 そして普通乗用車が巨大観覧車前の駐車スペースに停まり、鷹野さんがエンジンを切ってシートベルトを外して運転席から降りると、助手席のドアに回って開けた。

「降りていいぞ」
「はい」

 シートベルトを外して助手席から降りて巨大観覧車を見上げると、テレビでしか見たことが無かった巨大観覧車の骨組には沢山の蛍光灯が付けられていて、青、赤、緑、白と色が変化し、見ているだけで楽しいな。

 乗客を乗せるカゴにはカップルたちが身体を寄り添って夜景を見ていて、いいなぁ…、あんなふうに寄り添って仲良く夜景を見れる関係がちょっと羨ましいな。
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