鬼伐桃史譚 英桃

「おのれ、退魔師……」

 大鬼は、和の国すべてを飲み込まんとするような、大きな怒号が入り交じった声で叫ぶ。

「我を封じようとも――」


 大鬼の声は、それはそれは恐ろしく、まるで、地獄の果てにでも届きそうなものだった。


「人間が生を受けるかぎり、我が子らは、再び我を地獄から呼び戻すだろう」

 大鬼の血走った目が、絶望する妻を写す。妻はあまりにも恐ろしい鬼の形相に恐れ、わななく。

 木犀の刀によって上下ふたつに引き裂かれた大鬼の体が、平原の上で何も知らずにすやすやと眠っている童と赤子へと吸い込まれていく。



「梅姚(ばいよう)!! 桜華(おうか)!!」


 妻はすすり泣くのを止め、鬼が消えゆく先に手を伸ばし、童と赤子の名を叫ぶ。

 元近は必死に妻を制するが、それもかまわず妻が手を伸ばした。


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