鬼伐桃史譚 英桃

 大鬼が人びとの恐怖という恐怖を貪り食らうより先に、一刻も早くこの大鬼を退治せねばならない。



「本当に良いのですな?」

 焦る気持ちを隠し、木犀が訊(たず)ねると、後ろにいる元近が頷く気配がした。



「それより他に、方法がないのであれば」


 その声は悲しみを帯びていて、決断というよりは諦めに近いものだった。


 元近の隣では、妻が静かに泣いていた。


「承知いたしました」

 木犀は元近の承諾を得ると、腰に差している大太刀を鞘から抜いた。

 鋭く光った刃を上に向け、大地を蹴って空高く跳ぶ。


 丁度、大鬼の頭上へ跳んだ時だ。彼は口を開いた。



「巨なりし大鬼」

 木犀は大太刀を横へ薙(な)ぎ、大鬼の体を真っ二つに斬る。

 頭上では、またもや稲光が走り、天を二つに切り裂いた。


 ごう、ごう、と雷鳴が響く。


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