鬼伐桃史譚 英桃

「おう、おう、梅姚。桜華……」

 いったい誰(たれ)が自分の腹を痛めた我が子を贄(にえ)として鬼に差し出さねばならないのだろう。目の前で繰り広げられる惨劇を、妻は苦しい胸の内でわが子らの名を叫び続ける。



 しかし妻の悲痛な叫びも虚しく、大鬼の上半身は五歳ほどの可愛らしい童へ……。下半身はまだあどけない赤子へと吸い込まれていく。



 その刻を見計らっていた木犀が、今まさに鬼を封印する呪術をかける。開いた口からは鮮血が一筋流れ、大地に滴り落ちる。


 人の体に鬼を封じるのは禁忌の術だ。本来ならば邪悪な鬼を器として人の体に抑え込むことはあってはならない。しかし木犀には、強大になりすぎた鬼を討ち滅ぼす手立てがない。鬼を封じるしか手立てはなかったのだ。


 木犀もまた、その禁忌の術ゆえに命を削っていた。


「一の姫、梅姚に鬼の頭部を。二の姫、桜華に鬼の下部を。我が命をもって――彼の者を封ずる」


 木犀の命を削る術が終わる。


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