鬼伐桃史譚 英桃
「よいか、十六年だ。十六年後のその時こそが、お前ら人間の最後よ……」
鬼は、それはそれは恐ろしい笑い声を上げて、童らの体に吸い込まれた。
びえええええええええっ。
鬼が封じられ、静寂が宿った刻だ。どうしたことか、今まで静かに眠っていた赤子が大声を上げて泣きはじめた。
おそらくはこの赤子、自分の体内に異質な大鬼が入ったことに気が付いたのだろうと木犀は思った。
(――菊乃(きくの)。ゆすらうめ。わたしの分まで、生きよ。そして十六年の後、目覚めるであろう大鬼を、どうか滅ぼしてくれ……)
木犀は天に祈りながら冷たい地面へと倒れ、それっきり動かなくなった。
暗雲は消え、灰色の雲が空を覆う。彼の死を悼んでいるのか、ひとつの雨が絹の糸のようにして落ちてくる。
やがて絹の糸の雨は霧雨となって鬼が放った毒気を流し、大地を潤す。