鬼伐桃史譚 英桃

 怯える妹姫を梅姚は宥(なだ)める。彼女はとても冷静だった。


「しかしこのままでは皆、鬼に殺されてしまいます!」


 桜華は梅姚に意見した。悲痛な叫びを姉に告げる桜華の目には、涙が溜まっている。心優しい妹姫には人びとの悲鳴を耳にしてさぞや心を痛めているのだろう。

 なにせ桜華はようやく物心が付いた十三の時にその身に鬼を宿していることを両親から聞かされた。常人ならば泣き叫ぶか両親を責め立てるだろうに、桜華はそれがなかった。それで民が助かるならばと、桜華は静かに宿命を受け入れたのだ。――しかし今、家人たちが鬼に襲われている。そしてその災いの種は自分たちにあるのだ。妹姫は自分を責め苛んでいるに違いない。さらには自分もいつ鬼に殺されるかわからないのだ。それならば――と、梅姚は決意する。


「私が囮(おとり)になります。その隙に、桜華。お前はお逃げなさい」

「姉上? 何をおっしゃられるのです」


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