鬼伐桃史譚 英桃

 そして男は女の亭主で、名は木犀(もくさい)という。長身で、ところどころ白髪が入り交じった肩まである黒髪を後ろでひとつに束ねている。

 けっして体格が良いとは言い難い体つきに対して、腰には三尺(0.909090909 メートル)にもなる大太刀を差し、肘当てと膝当てを身にまとっていた。

 彼は今にも戦に出かけるような出で立ちであるものの、しかし着物は――と言えば、薄手の衣を身にまとっただけの軽装をしていた。




「やはり行かれるのですね」


 すやすやと眠る玉のような赤子を抱いた菊乃は、込み上げてくる必死に感情を抑え、戸口に立つ彼にそう告げた。

 できることならば、この里から出て行ってほしくない。自分の傍にいてほしい。腕の中で眠る我が子の成長を共に見守ってほしい。

 しかし、彼は里の長。主から命を受けたからには発たないわけにはいかない。





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