鬼伐桃史譚 英桃

「万が一、わたしに何かあった時は、ゆすらうめ……英桃(えいとう)をたのむ」


 その声は決意に満ちており、けっして死を迎える者の声ではなかった。


 木犀はひと息に告げてしまうと勢いよく木戸を閉めた。

 轟々と吹き荒ぶ風が戸口を強く叩く。



 木犀はその日、愛する妻と息子を残し、荒れ狂う外の世界へと旅発っていった。


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