鬼伐桃史譚 英桃

第三話・大鬼





「鬼だ! 大鬼が出たぞ!!」


 荒れ狂う大気の中、城下では民の非難する声が響き渡っていた。



 その城下からさほど遠くもない吹きすさぶ嵐の平原に、五つの姿と『それ』がいた。――その中には木犀(もくさい)の姿もあった。

 そして木犀と対峙するのは、赤黒い肌を持ち、巨大な体に口には鋭い牙を二本、さらに頭には大きな角を無数に持つ、大鬼だ。


 そんな木犀の後ろには、おそらくは同年代だろう、男と女。さらにその後ろには、男と女の子であろう、女によく似た可愛らしい女(め)の子と赤子が目を閉ざし、草原に横たわるようにして置かれている。

 男は肩衣と袴姿の裃(かみしも)に、女は金の糸を縫い込んである赤の着物を着ていて、見るからに貴い御身であるだろうことがわかる。

 それもそのはず、男の名は蘇芳 元近(すおう もとちか)。この都にある城を任された主で、女は元近の正妻だ。

 そして木犀に大鬼退治を依頼したのは他でもない、元近本人だったのだ。


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