鬼伐桃史譚 英桃

 ぐおぉぉぉぉおおおおお。




 轟々たる雷鳴と共に、野太い大鬼の唸り声が大地を震わせる。

 その場にいる誰しもを恐怖という地獄へと誘う。


 しかし、その恐怖さえもまた、大鬼にとっては『この上ない馳走』なのだ。

 馳走はますます鬼に力を蓄えさせる。

 それを知っている木犀は、だからこそ、大鬼を人気がないこの平原へと誘い込み、わずかに生まれた隙を見計らって木犀自らの呪術で作り上げた頑丈な鎖でその巨体を縛り上げたのだ。


 鬼はそもそも人々の邪念によって生まれる。邪念とはすなわち感情。元々は形無き鬼を縛るのはこの世にある物では縛ることができず、呪術は唯一鬼たちと対抗できうる唯一の術だ。


 だが、大鬼の体を縛り上げている鎖は、ぎりぎりと悲鳴を上げている。時期に消え去ることは目に見えていた。それだけ鬼が人びとの感情を食らい、強くなっているのだ。


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