大海原を抱きしめて
1.不思議な人



1.不思議な人


春の陽気に包まれて、ため息を一つ。

返事をしてくれたのは、軒下でさえずるスズメさんだけ。

書類作成を命令された正午前まで、私は終日事務所にいるはずだった。

気づけば、ノートパソコンと共に一人ぼっち。

出張といえば格好はつく。でも、いきなり環境が変わると寂しくなる。

誰もいない広い建物に一人きり。

嫌ではない。寂しいって感情のほうが、大きい。

郷土館。築150年余りの、この村で最古の建物である。

そんな貴重な建物を、村おこしの活動が始まった際に、観光客や村民向けの、歴史や文化を学べる施設として活用しよう、という話になったのが始まり。

少しは改築、手直しをしたものの、玄関をあければすぐに、古いかまどや石臼など時代を感じる骨董品が置かれている。

それらは全て、この村の人が実際に使っていた物をお借りして展示しているって言うんだから、私はびっくりした。

この村にも遠い昔から人が住んでいて、そうやって私は今、ここにいるってことだから。
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