大海原を抱きしめて



「谷上さん、郷土館の桜庭ちゃんからなんですけど」


嫌な予感が頻繁に現実になってしまう、そんな職場。

谷上さんの視線の先には、私。

頼られるっていうのは、いついかなる時でも幸せなこと。

そう思わないと、この職場ではやっていけない。


「かーのちゃん」

「はーい、なんでしょうか」


思ったよりも低い声がでたけれど、それ以上に怖い笑みが目の前に。

谷上さんの笑顔は大抵、毒に満ちている。


「出張、頼みます」

「はい、喜んで」


きっと、幸せ。

谷上さんはきっと、私が集中して書類を作成できるように、気遣ってくれているに違いない。

そんな思い込みとノートパソコンを抱えて、私は出勤したばかりの職場を出る。

この出張が運命を変えるとは、予想だにせずに。
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