大海原を抱きしめて
作業が終わったのは午後8時を回った頃。
くだらない言い争いと世間話に花が咲いて、意外にもあっという間に時間が経っていた。
谷上さんはもうとっくに帰宅していて、笠岡さんが施錠を引き受けて私を見送ってくれた。
「気をつけて帰れよー」
「はい、ありがとうございます」
いろんな感謝をこめて、とりあえず短く簡潔に。伝わったかはわかんないけど。
笠岡さんに話をして良かった。
初めて過去の話を人にしたけど、受け止めてくれて嬉しかった。
背中まで押してもらって。
いつか、恩返ししよう。
外にでると雨はすっかり止んでいて、夜の匂いと雨上がりの匂いが、程よく冷たい風に乗って私の鼻腔をくすぐった。
この匂いがしてしばらくすれば、夏が来る。
私の好きな、夏が。