大海原を抱きしめて


明日には、笠岡さんが言うとおり熱が下がって、具合も良くなってくれたらいいけど。

そして私は、期待をしてもいいんだろうか。

笠岡さんを思う気持ちを、忘れなくてもいいんだろうか。

確信は持てない。

笠岡さんの気持ちは、ちゃんと聞いてないし。


「香乃ちゃん」


帰りがけ、私を呼び止めた谷上さんは含みのある笑顔。


「あんな男に捕まっちゃったら最後、あの性格からは逃げられないと思ってね」

「どういうことですか」

「んー。香乃ちゃんが笠岡くんのものになったら、きっとわかると思うよ」


同じ男として、断言できる。

自信たっぷりに私に残した助言のような言葉の意味を、私は理解できなかった。

今でも十分、面倒な人。

それでも笠岡さんを好きになってしまった私にだって、その面倒を背負う責任があるって、思ってるから。

私は明日休みだ。
だから今日は可南子と飲む約束をしている。

この腫らした目について言及されたら、どう説明しよう。

"好きな人のために泣いた"なんて。

でも今日は、しばらくぶりに気分よく酔えそうな予感がして、頬が緩むのを抑えきれなかった。
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