大海原を抱きしめて


するり、隙を見て笠岡さんの腕の間をすり抜けて、距離をおいた。

笠岡さんは、くらり、ふらついて壁にもたれる。

逃げるならどうぞ、って顔に余裕もにじませて。


「なにが不満かわかりませんけど、別に笠岡さんのこと嫌いなんじゃありません。もしそう映ってたならすみませんでした」

「へー。じゃあ明日からは遠慮なく、仲良くさせてもらうわ」


仲良くって。幼稚園児じゃあるまいし。

でもそうツッこんだらまた終わりのない口論が始まると思って、グッと喉の奥に押し込んだ。

それに、こんなにお酒臭くてふらついてるんだから、明日にはきっと忘れている。

本気になって相手をするだけ無駄だ。

それでも笠岡さんは何か言いたげな瞳で私を見てくるから、気にせずにその場を後にした。

嫌いなんじゃない。何でも見透かしてるようなその視線が、苦手なの。

やっぱり嫌い。

こうして私をからかっておいて、明日にはすべて忘れ去られているのかと思うと、うんざりしてため息しか出てこなかった。
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