ラグタイム
「お前はもう今月で辞めるんだろ?

辞める前に武人に告白をしてきたらどうだ?

山は登ってみないとわからないって言うように、告白だってしてみないとわからないんだぞ」

あたしに背中を向けたまま、藤本さんが言った。

「ほら、早く行かねーと武人が帰っちまうぞ。

あいつ、今日は2時くらいに帰るとか何とかって言ってたから」

今あたしが『ラグタイム』に行けば、武人はそこにいる。

このチャンスを逃したら、あたしはもう2度と武人に会えないんだ。

武人があたしのことをまだ軽蔑しているのはわかっている。

兄貴の身代わりだったとは言え、性別を偽って働いたあたしを許していないこともわかっている。

だけど、武人に会えないまま辞めるのは後味が悪過ぎる。
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