ウ・テ・ル・ス
「なんか探しものか?」
 部屋着で出てきた秋良が、殺人現場の鑑識官のように振舞う真奈美に釘をさした。
「いえ、別に…。」
 あらためて秋良を見ると部屋着と言っても、このままクラブへ行けそうな装いだ。こいつは何を着ても似合いやがる。真奈美はぶつぶつ言いながら、長い脚を投げ出してソファーに座る秋良をチラチラと横目で見ていた。
 こうしてひとつ部屋の中で秋良とふたりきりでいると、胸がドキドキしてなんか落ち着かない気分になる。そんな自分を悟られまいと、真奈美は盛んに秋良に話しかけた。
「お茶でもいれましょうか?」
「俺の家で何言ってるんだ。動くな。」
「…お腹空いたでしょ。何か作りましょうか?」
「いいから、動くな。」
「…なんなら洗濯でもするけど…」
「信じられないこと言うやつだな。」
 やがて三室がやって来た。あちこちを駆けまわって来たのか、多少息が上がっていた。
「どうだった?」
「確かに侵入の痕跡があります。あのマンションのセキュリティは固いはずなのに、それを破って侵入してくるなんて…。」
「どうぞ。」
「ああ、ありがとう。」
 真奈美が水の入ったグラスを小盆にのせて、三室に差し出した。秋良のキッチンの冷蔵庫を勝手に開けて、ミネラルウオーターを見つけ出したのだ。
「勝手に何やってるんだ!」
 この家の新妻のように振舞う真奈美に、秋良が呆れて罵声を浴びせるも、彼女は平然として、ちょこんと秋良の横に並んで座った。三室は笑いをかみ殺しながら、グラスの水を一気に飲み干した。
「ところで、偶然なのか、それとも狙われたのか?」
「侵入するなら他にもっと楽な部屋があるのに、わざわざ難しい部屋を選んでいます。あきらかに彼女を狙っていますね。どこかで彼女を見染めたストーカーの仕業ですよ。若奥さん、犯人に心当たりは?」
 三室の軽口に、苦虫をかみつぶしたような顔をする秋良。真奈美はそんな彼に気を使いながら小さな声で返事をした。
「まったく…ありません。」
「正体不明なストーカーに狙われるなんて…。君は今では、会社にとって一番重要なウテルスだよ。何かあったら大変だ。」
 三室の話を聞いて、真奈美の顔つきが変わった。
「私にオファーが入ったんですね。」
 正式な告示前に彼女に悟られてしまった自分のミスに、黙りこむ三室。仕方なく秋良が返事を返した。
「そうだ。」
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