凪の海
確かに私は佑樹を失望させた。だが、それがいったいなんだというのだ。一生の仕事として音楽家の道を選んだ自分にとって、大切なのは『ヴォイス』の探求である。佑樹の失望とか、佑樹との友情関係を失ったとかなど、大した問題ではないはずだ。そう頭では割り切っていた。割り切ってはいるが、なぜ自分の胸は佑樹に会いたいと叫び続けるのだろうか。
汀怜奈は以前、佑樹に会いたくて、セルリアンタワー東急ホテルのフロント周りのロビーを1時間ほどウロついたことを思い出した。それは、プライドの高い汀怜奈が、当時佑樹に会うために実行できる最大限の譲歩行動だった。そして今、汀怜奈は自分ができる最大限の譲歩行動を再び実行しようとしていた。
汀怜奈が滞在していたマドリードから飛行機で一時間。汀怜奈がやってきたのは、アンダルシア州グラナダである。周知のことであるがグラナダは「アルハンブラ、ヘネラリーフェ、アルバイシン地区」として、世界文化遺産に登録されている地域。歴史的にはスペインを占領したアラブ人が、十一世紀から十五世紀までナスル朝として首都とした街として知られ、イスラム芸術最高傑作の居城「アルハンブラ宮殿」、石畳の緩やかな丘にあるイスラムの居住区「アルバイシンの丘」といったふたつの世界遺産を抱える都市である。
汀怜奈は、「アルハンブラ宮殿」に近いHotel Alhambra Palaceにチェックインすると、早速アルバイシン地区へとタクシーを走らせた。
元来がアラブ人の城塞都市として発展したこの地区は、小高い丘にあり、道が迷路のように入り組んでいる。すれ違う車や白い壁に擦られそうになりながら、急な坂道をぐいぐい登っていく。丘を登りきり着いたところにサン・ニコラス広場がある。タクシーを降りてそこの展望台に立つと、アルハンブラ宮殿の眺望が目の前に美しく広がった。まさにこの眺望は絶景である。
「こんな素敵なところに工房があるなんて…信じられませんわ。」
思わずそんな言葉が口に出る汀怜奈。しばらく、眺望を堪能していたが、ここで夜を迎えることもできない。彼女は目指す工房へ歩き始めた。
展望台から少し下って、石畳をてくてく歩いて行くと小さな広場があり、目の前の白い壁に素敵な淡いブルーで「ベルンド・マルティン」と書かれた白い小さな陶板がかけてあった。そう、ここが彼女の目指していたギター工房である。
汀怜奈は以前、佑樹に会いたくて、セルリアンタワー東急ホテルのフロント周りのロビーを1時間ほどウロついたことを思い出した。それは、プライドの高い汀怜奈が、当時佑樹に会うために実行できる最大限の譲歩行動だった。そして今、汀怜奈は自分ができる最大限の譲歩行動を再び実行しようとしていた。
汀怜奈が滞在していたマドリードから飛行機で一時間。汀怜奈がやってきたのは、アンダルシア州グラナダである。周知のことであるがグラナダは「アルハンブラ、ヘネラリーフェ、アルバイシン地区」として、世界文化遺産に登録されている地域。歴史的にはスペインを占領したアラブ人が、十一世紀から十五世紀までナスル朝として首都とした街として知られ、イスラム芸術最高傑作の居城「アルハンブラ宮殿」、石畳の緩やかな丘にあるイスラムの居住区「アルバイシンの丘」といったふたつの世界遺産を抱える都市である。
汀怜奈は、「アルハンブラ宮殿」に近いHotel Alhambra Palaceにチェックインすると、早速アルバイシン地区へとタクシーを走らせた。
元来がアラブ人の城塞都市として発展したこの地区は、小高い丘にあり、道が迷路のように入り組んでいる。すれ違う車や白い壁に擦られそうになりながら、急な坂道をぐいぐい登っていく。丘を登りきり着いたところにサン・ニコラス広場がある。タクシーを降りてそこの展望台に立つと、アルハンブラ宮殿の眺望が目の前に美しく広がった。まさにこの眺望は絶景である。
「こんな素敵なところに工房があるなんて…信じられませんわ。」
思わずそんな言葉が口に出る汀怜奈。しばらく、眺望を堪能していたが、ここで夜を迎えることもできない。彼女は目指す工房へ歩き始めた。
展望台から少し下って、石畳をてくてく歩いて行くと小さな広場があり、目の前の白い壁に素敵な淡いブルーで「ベルンド・マルティン」と書かれた白い小さな陶板がかけてあった。そう、ここが彼女の目指していたギター工房である。