凪の海
ドアを開けると、奥で職人さんが力木か何かを切断していた。優に190センチはあるであろう背の高い職人さんで、それがこの工房の頭首であるベルンド・マルティン氏であることは、壁に飾ってある写真で知ることができた。作業はしばらく続いていたが、汀怜奈に気付くとニコニコして出てきた。写真で見る限り気難しそうな印象だったが、実際に会って話しをしてみると、明朗、快活で彼もまた佑樹と同じような優しい子供のような眼をしている。
「何か御用ですかな、セニョリータ。」
「あの…ギターを修理していただきたくて…」
パリのエコール・ノルマルに留学していた学生時代に比べ、スペインでの数多くの演奏活動を経験した今では、汀怜奈もカタコトのスペイ語が話せるようになっていた。
「どれ、まずはそのギターを見せてもらおうかな。どうぞ、中におはいりください。」
マルティン氏に導かれ工房の奥へと進む。工房はとても整理されており、彼が大きいせいか机も棚もすべて高い位置にある。中央にベッドのように作業台が置かれていて、棚には写真が飾られており、著名なギタリスタやスペインはグラナダの名工、アントニオ・マリン・モンテロ等と一緒にマルティン氏が笑って写っていた。実はこの時の汀怜奈の瞳はせわしなく、そして忙しく動いていた。工房の中に佑樹の姿は無いか探していたのだ。しかし、その姿は見つけることはできなかった。
汀怜奈が持ってきたギターを一通りながめ終わったマルティン氏が口を開く。
「セニョリータ、ひとつ聞きたいのですが…。」
「はい、なんでしょう。」
「これはここで作ったギターではないね。」
「はい、そうですけど…。」
「私の工房でつくるギターは、どれも表、裏共に丸太から製材して、良質なところを厳選して使用していていましてね。」
「はい」
「特にこだわっているのは、ローズウッドのヘッドもブリッジも裏板も横板にも同じ一本の丸太から製作されていることなんです。」
「それで?」
「だからこそ、うちの持ち味である『重い低音を持ちながら、高音も硬くしまって音が抜けたギター』が生まれているわけで。」
「だから、それがどうしたのです?」
「つまりですね…うちはこの工房から生まれたギターは直しますが、そとから持ち込まれたギターはできかねます。残念ですが…。」
「何か御用ですかな、セニョリータ。」
「あの…ギターを修理していただきたくて…」
パリのエコール・ノルマルに留学していた学生時代に比べ、スペインでの数多くの演奏活動を経験した今では、汀怜奈もカタコトのスペイ語が話せるようになっていた。
「どれ、まずはそのギターを見せてもらおうかな。どうぞ、中におはいりください。」
マルティン氏に導かれ工房の奥へと進む。工房はとても整理されており、彼が大きいせいか机も棚もすべて高い位置にある。中央にベッドのように作業台が置かれていて、棚には写真が飾られており、著名なギタリスタやスペインはグラナダの名工、アントニオ・マリン・モンテロ等と一緒にマルティン氏が笑って写っていた。実はこの時の汀怜奈の瞳はせわしなく、そして忙しく動いていた。工房の中に佑樹の姿は無いか探していたのだ。しかし、その姿は見つけることはできなかった。
汀怜奈が持ってきたギターを一通りながめ終わったマルティン氏が口を開く。
「セニョリータ、ひとつ聞きたいのですが…。」
「はい、なんでしょう。」
「これはここで作ったギターではないね。」
「はい、そうですけど…。」
「私の工房でつくるギターは、どれも表、裏共に丸太から製材して、良質なところを厳選して使用していていましてね。」
「はい」
「特にこだわっているのは、ローズウッドのヘッドもブリッジも裏板も横板にも同じ一本の丸太から製作されていることなんです。」
「それで?」
「だからこそ、うちの持ち味である『重い低音を持ちながら、高音も硬くしまって音が抜けたギター』が生まれているわけで。」
「だから、それがどうしたのです?」
「つまりですね…うちはこの工房から生まれたギターは直しますが、そとから持ち込まれたギターはできかねます。残念ですが…。」