ドナリィンの恋
 ドナは、2階に上がると佑麻の枕元に腰掛けた。佑麻は、ぐっすりと寝ていて、ドナがいることに気づいていない。月の光が佑麻の長いまつげに絡みつく。時が止まったようだ。ドナは佑麻がこのまま目を覚まさなければいいと思った。ここで佑麻が眠っている限り、時は止まりいつまでも一緒にいられる気がしていた。
 ドナは、佑麻との出会いから今日までを、丁寧に思い返した。バス停に立っていた佑麻。スケートリンクでの佑麻。熱に苦しむ佑麻。大学の門前で涙ぐむ佑麻。水を運ぶ佑麻。畑仕事をする佑麻。講習会をする佑麻。どの佑麻ももう自分の心の一部になっている。それを失うことは、こころの一部が欠けたまま生きるのと同じことだ。この男なしでは、この後の人生がいかに空虚なものになるのかは容易に想像できた。
 佑麻が寝返りをうった。Tシャツの胸もとから、彼の母のリングが見えた。彼にはじめて抱きかかえられた時に、これが彼女の頬に当たり、佑麻の存在を意識づけたリングだ。今考えれば、佑麻の母が、ドナに送ったサインなのかもしれない。
「佑麻のママ。教えてください。 佑麻の幸せのために、私はどうしたらいいのですか?」
 ドナは、リングを見つめながら小さくつぶやいた。

 佑麻が目を覚ました時は、ドナはもう家に居なかった。佑麻は、今日彼女が朝早くから家を出ていくことは聞いていた。ジョンの依頼でテレビ局GMAの『Eat Bulaga/イート・ブラガ』に出演することになっているのだ。もちろん、自分の枕元でドナが夜を明かしていたことなど知るはずもない。彼は今日の飛行機で帰国する。ドナにどうしたらいいのか、どうして欲しいのか、考えがまとまらないまま今日がきてしまった。ミミの用意してくれた朝食を取っていると、家の電話が鳴った。麻貴からの電話だった。
「佑麻、帰国するんだって!」
「そうだっけ、ごめんな。」
「ごめんじゃないわよ。いつ帰るの?」
「今日の便。」
「えーっ!あたし聞いてないわよ。ほんとに自分勝手なんだから。私がなぜここに来たのか忘れたの?」
「じゃあ、一緒に帰るか?」
「今日の今日じゃ無理に決まっているでしょ。それに…、ジョンのおじいさんがうるさくて…。エンジェル・トーカー チャリティーのお世話でジョンの手伝いもあるし…。もう少しこっちにいるわ。みんなによろしくね。」
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