ドナリィンの恋
 マムは個室の一般病室に移されることになり、ふたりも付き添っていった。病室では、マムは生体情報モニタに繋がれながらも、静かな寝息を立てて眠っていた。ふたりは、しばらくマムの寝顔を眺めていたが、夜も更けてきたので、そろそろ休むことにした。病室の床に薄い毛布を一枚引いて、服も着替えずそのままふたりは並んで横になった。ホテルでもないのに、病室の床での寝泊まりを許してくれるのも、この国のいいところだ。横になりながらふたりは、生体情報モニタから発せられる規則的な信号音に癒されていた。
「ねぇ佑麻。ドクターでもないのに何であんなことが出来るの。」
 ドナはマムを救った迅速な心肺蘇生法について尋ねた。
「あれね、前に兄に頼まれてボランティアでAEDの市民講習会を手伝ったことがあるんだ。その時に覚えたことさ。実際にやったのは始めてだよ。」
「さすがドクターの息子ね。私なんてパニクっちゃって何もできなかった。看護師になるなんて言っておきながら恥ずかしいわ…。マムを助けてくれて本当にありがとう。」
「いや、一度覚えれば、誰でもできることだから。」
「それに、佑麻…。」
「なんだよ。」
「とってもカッコ良かった…。」
「そうだろ。今頃わかったのか、遅いよ。」
「ねえ…。」
「なに?」
「今夜だったら…、お礼に私のバージンあげてもいいわ。」
「…。い、いきなりバカ言うな!マムの居る部屋でそんなことしたら、殺されるよ!気持ちだけでいいから…。」
「ああそう。あとで後悔しないようにね。」それなりに勇気を出して言った申し入れを、あっさり断られてへそを曲げたドナが、佑麻に背を向ける。それを見た彼は、
「うーん…。そこまで言うなら、お言葉に甘えて、添い寝だけいただこうかな。」と、後ろからドナを抱きしめる。ドナはそれを待っていたかのように、佑麻の腕に身をゆだねた。
「…ねぇ。私 汗臭くない?」
「いいや、いつものドナのいい匂いだよ。」
「…ねぇ。そう言えばあなた、どさくさに紛れて、私の顔を叩いたわよね?」
「忘れなさい。」
「…ねぇ。ところで私の腰のところに当たる変なものは何?」
「いいからっ!寝ろ!」

 フィリピン華僑にもかかわらずジョンは、夜になってもなお蒸し暑いマニラの外気に辟易として、少しでも清涼な空気を襟元に導こうと盛んに扇子を動かした。
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