ドナリィンの恋
翌朝、佑麻とソフィアが外へ出ると、今度は隣町のコミュニティーリーダーが立っていた。第二回目もすぐに開催され、その後も噂を聞いた各地域から、たび重なる開催要請を受けた。繰り返し講習を実施したおかげで、ドナと佑麻がやっていることを徐々に理解してきたドミニクが傷病者から説明員にまで成長。彼の助力もあり、マムが病院から帰ってくる頃には、10回を越える開催回数となっていた。
昼に講習が予定されていたある朝。例によって、ソフィアに蹴られて起こされた佑麻は、歯を磨こうとバスルームへ向かう。鏡の前で眠い目をこすりながら歯ブラシを探していると、ソフィアが真新しい歯ブラシを持ってきた。
「マムがこれ使いなさいって。」
家に婿を受け入れる時は、まず箸と歯ブラシを与えるというが、この国も同様であろうか。佑麻はニンマリしながら歯を磨いた。
その日の講習は女性が多かった。フィリピン女性の社会意識は非常に高い。佑麻はマイクを片手に、空調もないホールで汗だくになりながら説明する。美しい線を描くあごから滴り落ちる汗が光る。Tシャツから時折のぞかせる割れた腹筋。ドナは、そんな佑麻をうっとりと眺めた。スケートリンクで踊った時の彼も、ドナの大学の校門で拾った時の彼も、それは魅力的だった。しかし今の彼はもっと魅力的だ。時を経るごとに魅力を増す彼は、この後はどんな男に成長するのだろう。この男の明日を見てみたい。ドナの頭に初めて『この男と生きたい』という言葉が浮かぶようになっていた。
「おいドナ!なにしてるんだ。早く訳せよ。」
佑麻に呼びかけられて、ドナは我に返った。あわてて通訳を再開する。
今回の参加者は積極的で、質疑応答は心肺蘇生法にとどまらず育児にまで及んだ。特に子供の発熱への初期対応が彼女たちの最大関心事である。もとより佑麻は専門科ではないので、そのことはドクターに聞くことを勧めたが、母親たちは、病気になった時しかドクターと話しができないと嘆く。
その時、会場のドアが乱暴に開け放たれた。暑いのに、黒い長靴で濃紺の長ズボン。同じ濃紺の長袖シャツに『PULIS』と書かれた制服を身にまとった男たちが乱入してきた。騒然とする場内。男たちは一直線に佑麻に突進すると、その手に錠を掛けた。驚いたドナは、男たちに猛然と抗議するが、男たちはただ黙ってドナに紙きれを示す。
昼に講習が予定されていたある朝。例によって、ソフィアに蹴られて起こされた佑麻は、歯を磨こうとバスルームへ向かう。鏡の前で眠い目をこすりながら歯ブラシを探していると、ソフィアが真新しい歯ブラシを持ってきた。
「マムがこれ使いなさいって。」
家に婿を受け入れる時は、まず箸と歯ブラシを与えるというが、この国も同様であろうか。佑麻はニンマリしながら歯を磨いた。
その日の講習は女性が多かった。フィリピン女性の社会意識は非常に高い。佑麻はマイクを片手に、空調もないホールで汗だくになりながら説明する。美しい線を描くあごから滴り落ちる汗が光る。Tシャツから時折のぞかせる割れた腹筋。ドナは、そんな佑麻をうっとりと眺めた。スケートリンクで踊った時の彼も、ドナの大学の校門で拾った時の彼も、それは魅力的だった。しかし今の彼はもっと魅力的だ。時を経るごとに魅力を増す彼は、この後はどんな男に成長するのだろう。この男の明日を見てみたい。ドナの頭に初めて『この男と生きたい』という言葉が浮かぶようになっていた。
「おいドナ!なにしてるんだ。早く訳せよ。」
佑麻に呼びかけられて、ドナは我に返った。あわてて通訳を再開する。
今回の参加者は積極的で、質疑応答は心肺蘇生法にとどまらず育児にまで及んだ。特に子供の発熱への初期対応が彼女たちの最大関心事である。もとより佑麻は専門科ではないので、そのことはドクターに聞くことを勧めたが、母親たちは、病気になった時しかドクターと話しができないと嘆く。
その時、会場のドアが乱暴に開け放たれた。暑いのに、黒い長靴で濃紺の長ズボン。同じ濃紺の長袖シャツに『PULIS』と書かれた制服を身にまとった男たちが乱入してきた。騒然とする場内。男たちは一直線に佑麻に突進すると、その手に錠を掛けた。驚いたドナは、男たちに猛然と抗議するが、男たちはただ黙ってドナに紙きれを示す。